先日、「メガネ」という映画をDVDをレンタルしてきて鑑賞しました。小林聡美さん演じる主人公が南の島へバカンスに行くのですが、そこで出会うのは不思議な時間・空間を満喫している「黄昏名人」の面々(なぜかみんなメガネをしている)。映画はのほほんとしたテンポでゆっくりと進みます。

「黄昏る(たそがれる)」ことに最適なこの南の島は、映画中ではどこの島なのかという説明は一切ありません。映画が終わったあとのエンドロールを見ると、ロケ地は「与論島」となってしました。で、今日はこの映画のお話しではなくて、ヨロンに関わる別のお話しであります・・・(笑)。

与論島はリゾートとしてあまりにも有名なので、あらためて説明する必要もありませんが、九州の鹿児島県最南端に位置する小島で、位置的には沖縄諸島の一部といってもおかしくない場所にあります。「ヨロン」と聞いて、私は社会人になりたての頃に読んだある小説のことを思い出しました。


森瑤子さん(故人)原作の小説「アイランド」です。遥か昔の時代、偶然に出会った天上人であるメサイと、人間であるミカドの恋のお話し。水浴びをしているメサイに一目ぼれしたミカドは、天上人であるメサイが天に帰れなくするために、天に昇るための羽衣を隠してしいます。それでも同じようにミカドに恋したメサイは、人間として下界で幸せに暮らしていくのですが・・・。



しかしその事実を知った「天の神」は怒り、2人を「天の川」を隔てた場所に別れさせてしまいます。1年に1度だけ、7月7日に2人は会うことを許されます。しかし、1年に1度だけの逢瀬に耐えられなくなったメサイは、どんな事でもするからミカドと一緒になれるように取り計らってくれと天の神に懇願します。天の神は、2人の記憶を無くすことを条件に、2人を暗黒の宇宙へと別々に解き放ちました。2人は幾度となく転生していろんなものに生まれ変わることができるのですが、同じ時代の同じ場所に生まれてくることは約束されていません。しかも2人は、いつか出会ったとしても記憶がありませんし、お互いがミカドとメサイであることに気がつかないことになっています。そんな約束をしてまでも、ミカドとメサイは、悠久の空間と時間をチリのように漂い、絶望的な孤独と戦いながら、それでもいつか2人が再び出会えることに懸けたのです・・・。

と、簡単に説明するには忍びないほどの、時空を超えた壮大なラブストーリーです。結局2人は、2003年に「ミュージカル作家」と「歌手」という設定の人間に生まれ変わっていて、ヨロンで再び出会うことになります。この小説が単行本として発刊されたのは1988年。著者である森瑤子さんは、そこから15年後を小説の舞台として設定しているのですが、これが映画「ブレードランナー」顔負けの近未来都市。人々は小型のリニア・モーターカーを乗り回し、旅行する時は完全個室タイプのコミューター「カプセル・トレイン」を使います。身の回りの雑用は「ロボット執事」が何でもこなしてくれます。現在の暮らしぶりは、森さんの小説ほど進化はしていませんが、インターネットが普及していて主人公がネットでオークションに参加している描写なんかは、まさに現在の生活そのもので、ズバリ予想があたっている部分もあります。

小説と現代でまったく当てはまらなかったものの中で注目したいのが「携帯電話」。小説中ではテレビ電話こそ出てきますが、相変わらず「留守録」で不在中の着信を確認する設定です。これだけ壮大な夢物語を空想することができる森さんにしても、まさか各個人が小さな電話を持ち歩き、若い子たちは「携帯依存症」になるくらいにケータイに縛られている世の中になっているとは、これっぽっちも空想できなかったのでしょうか。

1993年に胃癌で他界した森瑤子さん。自ら描いた2003年をとっくに超えた2009年の世界を見たら、どんな感想を持つことでしょう。

森さんが愛して止まなかった与論島。誰しもが黄昏ることができる島。いつしかその島を私も訪れてみたいと、あらためて思ったのでした。