No.055 / 2007年12月31日

「回顧 -2007-」

 
 
私たち夫婦が乗船した小さな船、「ウサギ小屋焙煎号」は、なかなか順風満帆に進んでくれず、今年も大小 さまざまな波に翻弄されました。それが「人生」だとも言えるのですが、何事もなく穏やかな波の上を進みたいと思うのは、ワガママなことなのでしょうか。

 一番の荒波は、3月に入院してしまったことです(エッセイNo.47)。 家族に心配をかけてしまったことはもちろんですが、お 店を休業にせざるを得ず、何日か臨時休業としてしまいました。3月の突然の胃の周辺の痛みの原因には、今だ釈然としないわけですが、健康で1年を過ごすこ との難しさを、あらためて思い知った1年でした。

 それでも、いい波に乗ることもできました。夏からあたらしい配達先が1つ増えました。今年オープンしたばかりのカフェなのですが、このカフェが当店の豆 を使うことになった経緯にまず驚きました。こ の店のスタッフは、長野県内の主だった自家焙煎珈琲豆屋の豆を買い揃えたのです。北は軽井沢の雑誌にも載るような名店といわれるようなお店から、南は伊那 の老舗まで、珈琲好きならば誰でも知っているようなお店の珈琲豆を買い揃え、その上で、スタッフの皆さんでお店の名前を伏せた状態で各店の珈琲をブライン ド・テストされたのです。

 結果、当店の珈琲を、そのカフェの皆さんは選んでくれました。もちろん、その結果がうれしいのはもちろんなのですが、まず何より、長野県内の有名店の数 々と同じテーブルに、当店の珈琲豆を並べてくれたことに感謝したい気持ちで一杯です。人は「有名店」の味を基準にしたがります。美味しいからその店を選ぶ のではなくて、有名な店だからその店を選びます。でも、そのカフェは、有名でも何でもない、田舎町の4.5坪の焙煎小屋の珈琲豆を、それらの有名店と同じ テーブルの上に並べ、尚且つ、同じ基準、同じルールのもと、公平に試飲をしてくれたのです。

 恥ずかしい話しなのですが、当店の売り上げが毎年若干でも右肩上がりであると言っても、一昨年と昨年の売り上げの増加分は、なんと数千円しか違いません でした。一年間、珈琲豆をたくさんの方にたくさん売って、その結果が1年前と数千円しか違わない!その結果は少なからずショックでした。妻も「企業へ、 コーヒーのオフィスサービスの営業したら?」とかも言われました。それでも強気に、「いいものは営業しなくたって拡がっていくんだ!」と強がっていた私で す。でも、内心はマイナス思考で一杯になり、「このまま売り上げが横ばいだったらどうしよう」というようなことをウジウジと考えていたのでした。だから、 このカフェが上記のような選考を経て、当店の珈琲豆を採用してくれたというお話しを伺ったとき、自分の青臭い理想も間違っていないゾ!という気持ちになっ たのです。もちろん、当店の珈琲が一番だというような、おこがましい気持ちはこれっぽっちもありません。今回の一件は単に1つの結果にすぎません。そのこ とを肝に銘じて、相変わらずの丁寧な仕事を心がけていきたいと思っております。

 悲しい知らせもありました。開店当初からの常連様だったIさんの訃報。その知らせが届くわずか1週間前、Iさんは当店のカウンターで珈琲を飲まれていた のです。まだまだ暑い夏の余韻を十分に引きずった秋の出来事でした。その夏もIさんは、環境問題に正面から向かい合い、それを世に拡げるための映画の自主 上映の企画に奔走されていた矢先でした。Iさんのご冥福を心からお祈り申し上げます。

 振り返ると当店も5年目に突入し、来年の5月で5周年ということになります。本当にこんな小屋にお客様が来てくれるんだろうか・・・その不安とともに開 店したあの日から、気がつけば5年もの月日が流れようとしているというのは、なんだか信じられない気持ちです。この5年という歳月を乗り切ってこれたの も、当店の珈琲豆を美味しいと言ってくれる、たくさんの皆様のおかげです。その皆様を裏切らないよう、来年も同じように豆と向き合い、少しずつでも前へ進 んでいこうと思っております。



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