No.040 / 2006年10月31日

「 通信販売」


 
 今月は他県にお住まいの方からのお問い合わせが数件ございました。メール、または電話によ るお問い合わせだったのですが、いづれも「通信販売はしていないのですか?」というものでした。現時点では正式な通信販売はおこなっておりません。当店の コーヒーを偶然に手に入れて飲んでみた方からのご注文であったり、当店のお客様の紹介があった場合は珈琲豆を発送させていただいております。

 珈琲豆屋を開業しようと思い立った時、店主がまずはじめに考えたのが通信販売でした。小さな店舗でも拡販が期待できますし、今後のインターネット社会を 考えると、通信販売の潜在的マーケットは無限の可能性を秘めています。店主もHP上から簡単にオーダーができる形式を考え、早々に店名の 「Toirocoffee」のドメインを取得し、「Toirocoffee.com」にて通信販売をおこなうつもりでおりました。

 今まで小売業を営んだ経験もありませんし、「しばらく様子を見てから・・・」と思い、とりあえずは通信販売には着手せずにおいたのですが、そのままズル ズルと現在に至っております。店をオープンさせてから3年半、実は店主の気持ちが少しづつ変わってきたのです。

 「商品の商品価値は品物だけでは決まらない」・・・店というものを営んでみて、それがよくわかりました。良い商品を提供しなければならないのは最低限の 絶対条件です。それに加えて店員の対応であったり、店の清潔感であったり、店の全てのものがその店の商品価値となるのです。「通信販売」で当店のコーヒー 豆を購入してくれたお客様の中で、どれくらいのお客様がトイロコーヒーというお店をわかってくれるのだろう、何割の方がリピートしてくれるのだろう、そん な事を考えているうちに、段々と通信販売には消極的になってきてしまったのです。

 店主もカタログ・ショッピングなどで様々な食品を買ったことがありますが、大抵はその店のリピーターにはならずじまいです。それはどうしてなのかと考え ると、やはり「作り手の顔」(エッセイNo.13)が 見えないからに他なりません。美味しいラーメン屋、そば屋、いろんな店を食べ歩いても、最終的にいつも行くお店は、いつもの「定番」のお店になることがほ とんどです。いつもの雰囲気、いつもの作り手の顔、気持ちのいいお店の対応、作り手の顔が見える商品の安心感はやはり何ものにも優先するのだと思います。

 「縁」とは不思議なものです。必然と偶然の交差する点から生まれる出会い。当店にもそんな「縁」でお客様になっていただいたお客様が何名もいらっしゃい ます。開店以来、当店の豆を毎月注文してくれる名古屋のHさん。長野市からいつも車で当店までお越しくださるTさん。広島にお住まいのご友人に当店の豆を いつも送ってくださっているKさん。すべては「縁」あってのつながりです。

 今月、当店にご連絡をしてくださった他県にお住まいのお客様方は、いづれも何らかの「縁」で当店のコーヒーをお召し上がりになられた方たちです。そして 「もう一度飲んでみたい」と思ってくださった皆様です。丁寧な文章でメールをくださったり、会ったこともない私に電話をかけてきてくださったお客様のその お気持ちがどんなにか嬉しいことか。本当にありあたい気持ちで一杯です。

 1クリックですべての注文が完了するインターネット社会。
 信用できる作り手の顔は果たして見えているのでしょうか。
 大きな工場で大量生産される品物ならいざ知らず、ウサギ小屋焙煎店で珈琲豆を焼く店主の気持ちは伝わるのでしょうか。

 「縁」あって店主の焼く珈琲豆を口にして、気に入っていただけたのならば、きっと店主の顔が見えたのだろうな・・・そう信じている店主なので す。

 


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十人十色のコーヒータイムを演出する、Toiro Coffeeです。
http://www.toirocoffee.com