No.013 / 2004年10月13日

「作り手の顔」

  
当店では、”プレミアム・コーヒー、スペシャリティー・コーヒーの専門店” という肩書きを 使用しています。これらは近年使われはじめた言葉なので、その実際を理解していらっしゃるお客様は少ないかもしれません。通常の一般的なコーヒー豆は、 農園で収穫された後に農協に集められ、適切な規格、グレードに分けられて出荷されます。代表的な例として”ブラジル・サントス・No.2・18"を挙げて みましょう。ブラジルは国名を指し、サントスは出荷される港を指します。No.2は欠点豆の含有率から判断されるグレードを指していますが、No.1が市 場に出てくることは稀で、No.2が実質的な上級グレードです。最後の18はスクリーン・サイズと呼ばれ、豆の大きさを示しています。大きなものになると 19というサイズがつきます。これが一般的なブラジル豆の流通名称です。ほとんどの農園のものはサントス 港から出荷されていますので、通常のブラジル・コーヒー豆は、どのこの農園産であろうとも”ブラジル・サントス”という名称になってしまいます。しかしながら、皆さんご存知のようにブラジルはとても広大な国土を有しており、そこに点在するコーヒー農園は南から北まで様々な条 件の中でコーヒーを栽培しています。当然、同じブラジル豆といっても味の特徴に差が出てきます。そこで近年では、商社が地域や農園を指定してコーヒー豆を 買いつけ、一般的なコーヒー豆とは差別化したものを”プレミアム・コーヒー”、”スペシャリティ・コーヒー”と呼称して差別化するようになったのです。当 然、生豆の卸値はスタンダードなコーヒーよりも高価な価格にて取引されます。当店のコーヒー・ライイナップを見て、”初めて聞くコーヒーの名前だな あ・・・”なんて感想をお持ちになるのは、このような地域、農園指定のスペシャリティ・コーヒーのみを取り扱っていることが理由です。

 先日まで、当店では”ガテマラ・フェア”なるものを開催させていただきました。一般的にはガテマラのコーヒー豆は、等級を表すアルファベットが付けられ て販売されています。一番等級の高い豆であれば”ガテマラ・SHB"という名称で市場に出ます。そんなガテマラ豆も地域や農園の違いによって様々な味わい があることを知ってもらいたくて、今回のような企画とあいなったわけです。ローズ・オブ・オークランド、エスペランサ、バレンシア、エル・コエグアルの各 ガテマラ豆は、過去のカップ・オブ・エクセレンス(コーヒー豆品評会)において上位入賞した豆を中心にセレクトした4種類です。いずれも少量ずつの販売で したので、幸運にも全種類をお飲みになられた方はごく 少数だったかと思います。今回のような企画を、今後もたまにはおこなって行きたいと考えておりますので、その際にはぜひとも全種類に挑戦してみてくださ い。コーヒーの奥深い世界を味わうことができるかと思います。
  

 ガテマラ・フェアでも 好評だった、ガテマラ共和国・サンマルコス地区・ローズオブオークランド農園のコーヒー豆を1袋買い付けました。とても小規模な農園のため、年間生産量は 250袋前後だそうです。そのうちの一袋が当店にあるかと思うと、なんだか嬉しくなってしまいます。

 この農園の生豆出荷用の麻袋、最高に素敵です。香り立ったコーヒーカップの上に真っ赤なバラ。作り手が伝えたい気持ちが良く表れているように思います。 この農園には実際にローズガーデンがあるという話しです。切り立った断崖の中にあるバラを愛する農園が作るコーヒー豆。ぜひとも試してみてください。


 こちらはインドネシ ア・スラウェシ島・トラジャ地区・スロトコ農園のコーヒー豆(当店での販売名は”カロシ・ランテカルア)の生豆麻袋に付いてくるタグです。なんと刺繍で す!目にも鮮やかな赤が”特別”を感じさせます。麻袋の中には、生豆に混ざってシリアルNo.が刻印された”ギャランティー・カード”が入っています。

 卸値が高価なスペシャリティー・コーヒーを取り扱いながら、お手頃な価格でお客様にコーヒーを提供するのは容易なことではありませんが、こんな素敵なラ ベルを見ていると、”もっともっと多くの方にスペシャリティ・コーヒーを知ってもらおう”という勇気が湧いてきます。インドネシアの大地を感じさせる味 を、ぜひともお試しください。


(注)ガテマラ・ローズ・オブ・オークランド、カロシ・ランテカルアは販売終了いたし ました


   ローズ・オブ・オークランド、カロシ・ランテカルア、それぞれの出荷用の麻袋を見るだけでも、コーヒーを作る農園のこだわりが伝わってくるようです。実際 にはお会いしたこともない農園主の顔が頭に浮かぶような気がします。作り手の顔が見える商品。それが”物売り”の原点だと思います。大きなチェーン店やフ ランチャイズ店にはオーナーの顔がありません。ファミリーレストランが味気ないのは、味が美味しい、美味しくないといった次元ではなくて、作り手の顔が見 えないからに他なりません。洒落た店内でなくとも、真剣な眼差しで料理をしているオーナーの姿が見える食堂やラーメン屋さんの方が、私は安心します。そこ には明確な”作り手の顔”があるからです。

 農園主の思いが伝わるコーヒー豆を扱いたい。そして何よりも私自身の”思い”がお客様に伝わるようなお店を作り上げていきたい。そんな青臭い理想を追い かけて、今日もコーヒー豆を焼いている店主なのでした。



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