No.050 / 2007年6月27日

「Home Made」

 
 
つい数ヶ月前に、大手の洋菓子メーカーの「消費期限切れ材料の故意使用」が話題になったばかりだという のに、今度は大手の食肉加工メーカーの、様々な偽装が表面化して話題になっています。いずれのケースも「内部告発」で発覚していますので、これらは本当に 氷山の一角だと考えざるを得ません。様々なものが、当たり前に工場で加工され、当たり前に全国を流通し、当たり前に24時間入手できる時代になり、その品 質を疑うこともなく口にしてきたことを、そろそろ真剣に考える必要があるのかもしれません。

 数年前のクリスマスに、我が家はある洋菓子メーカーにクリスマスケーキを注文しました。松本平では比較的大手のケーキ屋さんで、大きなスーパーにはテナ ント店として良くみかける洋菓子メーカーです。クリスマスの夜、こどもたちは大喜びで、そのケーキを箱から出しました。しかし、そのケーキの姿を見たとき に、私と妻は嫌な予感を覚えました。そして、皆でケーキを口にしたとたん、その予感は現実となりました。そのケーキはまったくしっとり感がなく、パサパサ もいいところで、およそケーキと呼べる代物ではなかったのです。私は、それほどケーキにうるさいことを言うつもりはありません。普通に生クリームがかかっ ていて、ちょっとばかりのイチゴが入っている、ごく当たり前のデコレーションケーキで十分だと思っています。しかし、その時ばかりはあきれてしまいまし た。クリスマスはケーキ業界にしてみれば、年に1度のかき入れ時です。大きなケーキ屋さんともなれば、とても1日で注文の数だけのケーキを作ることは無理 でしょう。結果として、数日間は日持ちするケーキをつくらざるを得ません。もっとも味の良い状態で食べてもらいたい・・・という本質からはまったく逸脱し た残念なことです。

 そんな話しを当店のお客様に話したところ、ケーキが好きな人は、絶対に大きなケーキ屋さんにはクリスマスケーキを注文しないということを聞かされまし た。そんなことも知らずに高いお金を出して、こどもたちに喜んでもらおうと、知名度のあるケーキ屋さんに注文を出した自分に無償に腹が立ってしまいまし た。そして、それからというもの、お客さんとの話題にケーキの話しが出ると、「小さなケーキ屋さんで、どこかに美味しいところはないですかねえ・・・」な どと相談することが常となってしまいました。

 今月の半ば、次女が誕生日を迎えました。誕生日のケーキをどうしようか迷っていたところ、当店のお客様からの紹介で、個人でケーキを趣味で焼いている人 を教えていただきました。娘の誕生日のケーキを焼いてもらえないかどうか聞いていただいたところ、快くOKの返事をいただき、さっそく注文させていただく ことになった次第です。指定した当日の、更に食べる時間帯に合わせて作ってくれたケーキ。甘さを控えた自然な味わい。そして何よりも作り手の顔がよくわか るケーキ。どんな調味料にも勝る深みが、そのケーキにはありました。

 一人の趣味人の手から作り出される味の芸術。
 それは決して、それを求める人間を裏切らないと店主は信じています。




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