No.048 / 2007年4月15日

「1本の桜のように」

 
 松本平の桜も満開となり、ようやく本格的な春の到来です。ここはひとつ、家族で花見に繰り出そう!ということになるわけですが、店主はあまりにたくさん の桜の木々が並んでいる場所を好みません。もちろん、それは大変美しい姿なのですが、「まつり」の雰囲気を強調せんとするがために飾られた「ちょうちん」 だったり、飲食店の出店であったり、ここぞとばかりにはしゃいだ人々の残していくゴミの多さにうんざりしてしまうためです。数年前、松本平の桜の名所の1 つである「弘法山古墳」の桜を見に行きました。ぎゅうぎゅう詰めの人の群れを避けるべく、朝の6:00に出かけた弘法山の丘陵は、朝日が演出する桜の見事 なグラデーションと、目覚めたばかりの鳥たちの鳴き声で、それは美しい瞬間を見ることができました。しかしその足元には食べ散らかされた食べ物の残骸や缶 ビールの空き缶がたくさん転がっており、何とも悲しい気持ちになったものです。花は自然であってこそ美しい。そこには「ちょうちん」も「缶ビール」も必要 ないと思うのは店主だけでしょうか・・・

 そんな店主が好きな桜が、塩尻市役所の敷地内にある1本の桜の木です。樹齢80年以上といわれる、それは見事な枝ぶりのシダレ桜です。もちろん塩尻市民 であれば誰もが知っている有名な桜の木ではあるのですが、市役所という場所や、たくさんの桜がひしめきあっているような場所ではないので、桜を見に来てい る人はそれほど多くはありません。もちろんそこには、ちょうちんも出店も缶ビールも焼肉もありません。純粋に「花」を見るために存在する桜のスポットで す。塩尻以外に住んでいる方も、都合がつけばぜひとも訪れていただきたい場所です。







 樹齢80年以上と言われる、塩尻市役所のシダレ桜。その大樹から伸びる放物線の美しさ。愛す べき塩尻のシンボルの1つです。

 

 


 シダレ桜を見た帰り道、我が家用の食料品を買うために、いつも利用しているスーパーマーケットに立ち寄りました。開店してから1年ほどたつスーパーマー ケットなのですが、初めてコーヒー豆の売り場を見てみました。商売柄、スーパーのコーヒー豆売り場を覗くことはないのですが、昨日は美味しい「抹茶」を探 していたら、その横がコーヒー豆の売り場だった次第です。見てみると、軽井沢の有名焙煎店のコーヒーが積まれていました。その有名店は、雑誌で自家焙煎珈 琲店の特集等があればかならず取り上げられるお店で、オーナー自らが良質なコーヒー豆を直接買い付けていることでも知られ、長野県の焙煎屋であれば知らな い人はいないと思われる有名店です。いや、今や全国的にも目立つ存在のお店であると言えるでしょう。そのお店のコーヒー豆が、同じ長野県内であるとは言 え、塩尻市のスーパーの棚売りで売られていることにびっくりしたのですが、志高いコーヒー通のオーナーが「スーパーの棚売り」をしていることに、ちょっと したショックを感じました。豆袋には消費期限が記載されており、その期限は2ヶ月後となっていました。

 焙煎後1週間以内の豆の販売のみにこだわり、売れ残りが出ないように悪戦苦闘している我が店の努力は、消費者の皆さんにとっては、とるに足らない事なの かもしれません。ブランド力。それはメディアに煽られ、加速度を増し、消費者の目に留まります。消費者がモノを選ぶ上での最大のポイントは「ブランド力」 なのでしょうか・・・。しかしどのブランドにも、店主が理想を追いかけていた頃の、小さな小さな店舗での出発点があったはずです。美味しいコーヒー豆を届 けたい。焼きたてのコーヒー豆を届けたい。その出発点が、いつしか軌道にのり、利益の追求の過程で、忘れてはならない何かを置き去りにしてしまっているよ うでなりません。

 「有名店のコーヒー豆がスーパーで買えるんだね」とつぶやくと、「あなたとはスタイルが違うでしょ」と妻に言われました。自分のスタイルは何なのか。そ の理想の姿はいまだに掴めません。ただ、今日わかったことは、多数の目を引く観光地の桜にはなりたくないと言う事。知る人ぞ知るこだわりの場所。地域の人 にこそ愛し続けてもらえている老いた大樹。その1本の桜にこそ、その答えがあるように思った店主なのでした。

 



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