No.046 / 2007年1月24日

「プライド」

 
 某洋菓子メーカーが期限切れの牛乳を使用していた問題がメディアを騒がせています。そのことよりも店主を驚かせたのは、この洋菓子メーカーの問題が発覚 した後、次から次へと報道される様々な菓子メーカー、外食産業の期限切れ商品の販売です。つまりは、それほどまでに大手メーカーでの製造現場での管理がい い加減であったという事実であり、洋菓子メーカーの問題発覚後の世論の反響のすごさに、「実はウチも・・・」と公表せざるを得なくなった各メーカーや各企 業の体質にもあきれるばかりです。

 美味しい行列ができるラーメン屋が2号店を出店したけれども、2号店の味はどうも美味しくない・・・。巷で良く聞かれる話しです。こだわりを持った料理 人が始めた店であったならば、まったく同じ人間が2人いない限りは同じ味が完成するわけがありません。それならばレシピをすべて画一化して、マニュアル通 りに作れば同じ味ができるはず・・・という発想のもと、大手チェーンは今日も大量生産画一メニューの開発にいそしむわけです。

 ある程度の味の画一化ができたとして、それでもどうしても画一できないものがあります。それは「プライド」です。究極のラーメンを完成させた店主には 「世界でウチだけの味」にプライドがあることでしょう。フランスの3つ星レストランで修行してきたパティシエであれば、その苦労の末に会得した自らの技術 にプライドを持つことでしょう。その店の利益を追求するがゆえに、ラーメン屋の店主がインスタントラーメン会社とタイアップしたり、ケーキ屋の店主がカタ ログ通販会社とタイアップしたとたん、その店主たちの「プライド」は残念ながら消え去るとしか思えません。

 頑固な職人気質のオヤジの手から生み出された1つのデコレーションケーキ。その町の子供たちの誕生日や、町の人々のクリスマスを彩ってきたそれらが、大 手メーカーの「工場生産」のケーキと同列と並べられるわけがありません。全国の支店・フランチャイズ店に商品を加工して発送するメーカーの社員ひとりひと りにその「プライド」を植えつけるには、並大抵の努力なしでは可能にならないことでしょう。職人はプライドとともに生きていかなければならないのです。

 もっとも、批判されるのはメーカー側だけではなくて、我々消費者側にもあるのかもしれません。大きく宣伝される品物に飛びつき、流行の店ができたと聞け ばそれに飛びつき・・・その結果、町の個人商店が次々と消えていくことになったわけでもあります。本当に良いものを見極めるのは、我々消費者であり、流行 や宣伝に躍らされることのない自分の価値観をきちんと持つべきではないでしょうか。

 しかしながら個人商店であれば品質が完全というわけではありません。店主も珈琲豆を販売するという販売側に立っている人間ですから、大手を批判するばか りでは、ただの評論家気取りで終わってしまいます。答えは自らの手で生み出すしかありません。珈琲の生豆をトレーに並べ、不良豆を除去する・・・誰も見て くれているわけではありません。それでも、当店の豆を買ってくれたお客様の何人かは、この店の豆にはクズ豆があまりないと気づいてくれるかもしれません。 焙煎後1週間以内の珈琲豆しか販売しない・・・これもありがたがってくれる人がどれくらいいるかわかりません。珈琲はスーパーの棚で何ヶ月も平気で売られ ているものだと思っている人が大半なのですから・・・。それでも、珈琲の粉にお湯をかけたらすごく膨らんだ!香りがすごくいい!と喜んでくれるお客様の言 葉がある限り、「プライド」を捨てるわけにはいかないのです。

 それは小さな小さなプライドかもしれません。
 でもそれは、この店がある限り守り通さなくてはならない大切なもの。
 きっとそのプライドをわかってくれる人達がいる。
 それだけを信じて、ウサギ小屋焙煎店の店主は、今日も豆を焼くのです。




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