No.037 / 2006年7月20日

「 適材適所」


 
 熱戦が繰り返された2006-FIFAワールドカップ。日本は期待されながらも残念な結果 に終わってしまいました。指揮を執ったジーコ監督は、日本人選手のフィジカルの根本的な弱さを、敗戦の弁として語っていましたが、各種メディア上では、指 揮官の采配を問題視する発言も少なくありませんでした。

 サッカーというスポーツにおいて、監督の指揮がゲームの行方を左右する大きなポイントとなるのは、サッカーに関してはド素人の私の目から見ても明らかで す。90分間を走り続ける過酷なゲームの中での選手交代のタイミングはもちろんですが、代表選手の招集も監督がおこなうわけですし、戦術、精神面、あらゆ る角度から監督の手腕が試されることとなります。適材適所に選手をコントロールすることこそが、良い監督の条件と言えるでしょう。

 コーヒーにも適材適所が肝心だと店主は思っております。コーヒー豆の分類は、細かく細分化しいくとたくさんの種類に分けられるのですが、根底にある分類 としては、「アラビカ」、「ロブスタ」の2種類に分類されます。アラビカ種は高地でしか栽培できず、病害虫に弱い反面、スッキリとした後味の良いコーヒー 豆が出来上がります。それに対してロブスタ種は低地でも栽培でき、病害虫にも強いという特徴を持ちます。しかしながらロブスタは特有の苦味を有しており、 ストレートで飲むにはそのあまりに強烈な苦味が敬遠される傾向にあります。したがって、栽培される多くのロブスタ種のコーヒー豆は、ストロングコーヒーを 日常的に飲むヨローロッパ諸国や、インスタントコーヒーの原料にされるのが主となっています。

 多くのコーヒー豆専門店は、「アラビカ種のみの取扱い」を大きく謳い、味にこだわっている店であることをアピールします。もちろん当店も原則的には「ア ラビカ種のみを扱うコーヒー豆専門店」でありました・・・。なぜ過去形で書かなくてはならないかというと、この7月から販売を開始したアイスコーヒー用の ブレンドの一部に、ロブスタ種のコーヒー豆をブレンドしているからです。

 当店がオープンしてからの3年間、当店ではアイスコーヒー用の豆を販売してきませんでした。深煎りの豆や、ブレンドをアイスコーヒー用にすすめることは あっても、専用のブレンドは販売してこなかったのです。それほど深く煎った豆でなくても、さっぱりと美味しくいただける「ウォーター・ドリップ」をすすめ てきたせいもあります。でも、アイスコーヒー専用のブレンドを用意してこなかった本音は、「難しいから」です。

 アイスコーヒーほど難しいコーヒーはないと店主は思っております。蒸気が立ち上がらない液体からは香りも立ちあがりませんし、使用する氷の良し悪しで味 は大きく左右されます。家庭によっては氷を使用せずに、ホットで作ったコーヒーを冷ましてから、冷蔵庫で冷やしてアイスコーヒーを作る家庭もあり、家庭ご とでできあがるアイスコーヒーの味は、まさに千差万別です。そんなわけでなるべくであれば、味のぶれの少ない「ウォーター・ドリップ」を、皆さんにも知っ て欲しいな・・・と、一生懸命に宣伝してきた次第です。しかしながら、苦味のしっかり残る、氷でギュっと引き締めたアイスコーヒーが飲みたいというお客さ んもたくさんいらっしゃいまして、今年からは夏季限定という形で、アイスコーヒー専用のブレンドを販売することとなりました。

 当店で販売するアイスコーヒー用のブレンドのベースに用いるのは、インドネシア・ジャワ島原産の「ジャワ・ロブスタ」です。「ジャバロブ」の愛称で知ら れ、店によってはストレートで販売されていることもある有名なロブスタ種です。このジャバロブと、ブラジル産のアラビカ豆を、半分づつ、50:50に生豆 の状態で混ぜ、これをオーバーフレンチに焙煎いたします(この手法は混合焙煎と呼ばれます)。このブレンドだけでもアイスコーヒーにしても負けない苦味は でますが、爽快さに欠けます。爽快さや甘みを出すために、シティ・ロースト〜フルシティ・ローストくらいの焙煎度合の豆を、更にブレンドしてあります。1 つは水出しコーヒーにしても、きちんと甘みが残るように、モカを加えたブレンド。もう1つは苦味中心のテイストでまとめたブラジル・セラードを加えたブレ ンドにしてみました。

 もちろん、「アラビカ種」の豆のみを用いたアイスコーヒー用のブレンドも作れます。しかし、氷の冷たさにも負けない強い苦味、という個性を、どうしても 今回は使用してみたかったのです。

 欠点の多い荒削りな選手を使わない・・・そういう監督もいるでしょう。しかし、チームの全員が同じようなプレースタイルでは、サッカーは面白くありませ ん。欠点を承知の上で、その選手を使うことで、チームの総合力を上げられる。そんな監督が理想の監督なのではないでしょうか。



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