No.026 / 2005年7月13日

「ウォーター・ドリップのススメ」


 7月も中旬になりますと、そろそろ梅雨もあけて、本格的な夏の到来となります。
 夏になると珈琲豆の消費が、がくっと減りますので、珈琲豆屋にとっては悩ましい季節でもあります。喫茶店でもホットコーヒーではなくてアイスコーヒーを 頼まれる方が多くなるのではないでしょうか?

 このアイスコーヒーでありますが、コーヒー通の方ほど「アイスは飲まない」という方が多いように見受けられます。喫茶店等でアイスコーヒーは飲むけれ ど、必ずガムシロップとミルクを入れてしまう・・・という方も多いのではないでしょうか(店主もそんな一人です)。ホットでは美味しくブラックコーヒーで いただけるのに、どうしてアイスコーヒーだとブラックで飲む気がしないのか・・・。答えは簡単です。それは美味しくないからに他なりません。

 一般的なアイスコーヒーの作り方は、濃いめに淹れたホットコーヒーを、氷をつめたグラスに一気に注いで作ります。当然、氷が溶けてコーヒーは薄まります から、これを見越してかなり濃いめのコーヒーを使用するわけです。さらに人間の味覚は、口にするものが低温になるほど鈍感になります。低温でありながら しっかりとした味を出すためには、苦味や糖分などを多くするしかありません。その結果、「アイスコーヒー用」と称されて売られているコーヒー豆は、フレン チローストを通り越してイタリアンローストくらいの、それはもう真っ黒な状態のコーヒー豆であることが多いのです。(イタリアンローストなどどいう呼称が あるからややこしいのですが、本場イタリアのエスプレッソは、フルシティローストからフレンチローストくらいの豆を使用します)

 コーヒーが好きな人は苦味の他に、「香り」や「甘み」といった様々は味の要素を楽しむわけですが、イタリアンローストされた真っ黒なコーヒー豆は、「苦 味」の要素がほとんどであり、その他の微妙な味わいは無きに等しいと言っても良いでしょう。結果、ほとんどの方は出されたその液体にガムシロとミルクを たっぷりと注ぎこむこととなるのです。

 ブラックで美味しく飲めるアイスコーヒーは無いのでしょうか・・・。
 実はそれがあるのです。それが「ウォーター・ドリップ」、すなわち水出しコーヒーなのです。

 喫茶店が多い地域で過ごされた経験のある方であれば、「水出しコーヒー」は特別な存在ではないでしょう。喫茶店のカウンターに据え置かれた水出しコー ヒーの抽出機を目にしたことがあるかと思います。上部にあるタンクに水を入れておくと、それがぐるぐると渦巻き状になった細いパイプを通過していき、一滴 づつコーヒーの粉によってろ過され、下にあるサーバーには透き通った琥珀色の液体が溜まります。すべての水がコーヒーの粉にろ過されてサーバーに溜まるま でには一晩くらいを要しますので、これは大変に手間のかかったコーヒーであります。そのせいか、この「水出しアイスコーヒー」をお目にすることはあまりな くなってしまいました。世の中はスターバックスに代表されるファーストフード感覚のコーヒー時代です。プシューッ!という音とともにエスプレッソ抽出され たコーヒーを、グラス一杯につめたクラッシュド・アイスに注げば、はい出来上がり。上にアイスクリームとキャラメルシロップなんぞかけようものなら、 ちょっとしたクリーム・パフェをも圧倒してしまいます。もちろんそれも美味しいのですが、一滴ずつ一晩かけて抽出された透き通る液体にこそノスタルジーを 感じてしまうのは、店主が60年代生まれの、そろそろ立派なオヤジへと突入しつつある証しなのでしょうか・・・。

 そんな店主オススメの水出しコーヒーでありますが、何も本格的な抽出機がなくとも、ご家庭で簡単に作るための器具がいくつかのメーカーから販売されてい ます。当店にて販売しているものは、通常のコーヒーを作るのと同じように、ペーパーフィルターをセットして、細挽きにした粉に水を注ぐというタイプです。 そのまま冷蔵庫に入れておけば、3時間から4時間ほどで美味しい水出しコーヒーが出来上がります。1リットルくらいのペットボトル状の容器に、プラスチッ ク製のフィルターがセットされているタイプもありますが、店主が試してみた限りでは、やはりペーパーでろ過したもののほうが口あたりがやわらかく、美味し いものが出来上がるようです。


数時間をかけて出来上 がったアイスコーヒーはサラリとした飲み口で、ほのかな甘みが特徴です。もちろんシロップ等を入れても美味しくいただけますが、コーヒー本来の成分が持つ 甘みを味わっていただけるように、このまま何も入れずに召し上がっていただくのがオススメです。

フルシティロースト〜フレンチローストくらいの豆を使用していただくのが一番まとまった味になります。ちょっとだけモカのような独特のフレーバーを持つ豆 をブレンドしても美味しいです。



 何もかもがあわただしい時代ですから、自分のために飲むアイスコーヒーくらい、ゆっくと時間をかけて作ってみてはいかがでしょう。きっと夏の暑さも和ら ぐハズですヨ。



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