No.024 / 2005年5月26日

「イモと珈琲と」


 昨年の1月に「胆のう」を摘出してから、 気がつけば1年半近くの時間が流れました。車だったら1ヶ月点検、6ヶ月点検、そして車検といった具合に、販売店からメンテナンスについての案内でも来る ところです。しかし人間ときたら、体の中から臓器を1つ取り除いたというのに、その後のケアについては、病院からは一切無いときたものですから困ったもの です。お医者様からしてみれば、「胆のう」くらい取ったからって何ともないよ・・・というくらいのものなのかもしれません。確かに現時点で店主は元気にし ております。しかし実際は手術前と手術後で微妙に変わってしまった体質に慣れるのにはかなり苦労しました。

 「胆のう」は肝臓から分泌される「胆汁」を溜めておく場所です。状況に応じて適宜に胆汁を出して腸内での消化、栄養吸収の手助けをしています。「胆の う」がなくなった場合には常に「胆汁」が肝臓から流れ出ているということになります。一日に流れ出る胆汁の量はおよそ1リットルと言われておりますから、 1リットルの「胆汁」の濃度調整、排出機構、を私は失ったことになります。

 術後から私が苦しんだのは、便秘と下痢を繰り返すようになったことです。便秘自体は日常生活上は特に問題になることもないのですが、便秘が数日続いた 後、腹痛とともにやってくる下痢がやっかいものでした。それは腸内の滞留物をすべて吐き出すまで続きます。最初の腹痛から2時間くらいは額に冷や汗を浮か べながらトイレでうなっているしかありませんでした。そして自分が考えたのは、食事を変えることです。食物繊維をたくさん取れば整腸作用がスムーズにおこ なわれると考えました。そして私のお昼ゴハンは、「イモ」になることになったのです。

 朝食、夕食は家族と一緒に普通の食事を取ります。昼のみ、毎日毎日イモを食べるのです。最初は妻に頼んで、薄切りにしたサツマイモをレンジで加熱しても らって即席のふかしイモを作ってもらって食べていました。しかしこれはあまり美味しくない。次に試したのは、松本市の縄手通りにあるヤキイモの老舗「三松 屋」のヤキイモの作り方をまねたものです。皮をむいて少々厚めにスライスしたサツマイモをフライパンでじっくりと20分ほどかけて焼き上げます。そして仕 上げに塩を振ってこれを食すのです。これはかなり美味しく、飽きずに食べることができました。そんな生活によって、私はようやく通常の生活を送ることがで きるようになったのです。

 そのことを不憫には思いません。朝と夜は普通の食事をしていることですし、店が休みの日は家族と外食したりもします。あけても暮れてもイモのみを食べて いる人だってこの地球上にはたくさんいるのです。
日本人が毎日「米」を食べることと同じで、毎日「イモ」 を食べて生活していくことは単なる食習慣に過ぎません。毎日食事ができることに感謝しなくてはなりませ ん。何よりも先進国の人々は余分なものを食べすぎなのですから。



最近では、妻にリクエストして、焼きあがる寸前にオリーブオイルを入れてもらって、幾分しっとりとしたヤキイモなども作ってもらっ たりしています。

本日の昼食は、庭で栽培しているイタリアン・パセリをちょっとばかり彩りに振りかけてもらいました。美味しそうでしょう?

サツマイモの美味しい料理法があったらぜひとも教えてください。なるべく簡単なものを・・・(笑)。


 私が自分自身の口から食物をとることができなくなるその日まで、私は「イモ」を食べ続けていくでしょう。
 「イモ」と「珈琲」と。
 何の因果か、私が毎日向き合わなければならなくなった2つの作物です。これから長い付き合いになりそうです。


 (平成19年7月5日・加筆)
 平成19年の6月をもって、上記エッセイ中に出てくる「三松 屋」が閉店しました。またひとつ、松本の素敵な文化が無くなってしまいました。とても悲しいことです。



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