No.020 / 2005年1月25日

「まちづくりを考える」


  塩尻市としおじりスマイルコラボレーション(NPO)が主催するイベント、「まちづくりと防災」に足を運んできました


 10年前に発生した阪神淡路大震災でもっとも大きな被害を受けた神戸市長田区野田北部地区の復興の中で、中心的な役割を果たした浅山三郎さんが、わざわ ざ塩尻市にまで来てパネル・ディスカッションに参加されていました。浅山さんは「神戸市野田北部まちづくり協議会会長」という肩書きをお持ちの方で、実際 にご本人にお会いするまではとても怖そうな雰囲気の人かと思っていましたが、実際は人情味あふれる優しそうな方でした。

 10年前、朝起てTVをつけた途端に目に入ってきた映像はそれはすざまじいものでした。町一面が炎につつまれて黒煙を上げていました。その町こそが浅山 さんが住んでおられた長田区野田北部地区です。あれから10年。被災した町が復興するための鍵は何だったのか、それを聞きたくて店主は塩尻総合文化セン ターに足を運んだのです。

 復興のためのキーワード。それは簡単なようで現代社会では一番難しい問題点かもしれません。
 浅山さんが遠路はるばる塩尻まで来て残していったキーワード。
 それは「町づくりは人づくり」でした。


 すべてのモノが一瞬のうちに崩れ落ちる。存在したものが消失する。行政自体も被災者の一部と化すわけですから、被災への迅速な対応などマニュアル化でき るはずがありません。すべてが即断即決。無事だった人がその場で行動をおこさなければならない。それが被災した人間の生の声でした。野田北部が奇跡的な復 興を遂げたのは、震災前から浅山さんを中心におこなっていたという「人づくり」のネットワークがあったからこそ成し遂げ得たのでしょう。

 野田北部はどうして人のつながりが密だったのか?浅山さんはその問いに「裏口文化があったから」と答えていらっしゃいました。表玄関を使わずに裏口から 気軽に付き合える文化。大きく放たれた掃きだし窓を背にした縁側での雑談。それはかつての日本では当たり前に見られた光景です。

 その話を聞いて私は自分の生家を思い浮かべました。近所の人はみんな表玄関になどやってきません。家族が使う裏口へとひょっこりと顔を出します。ある時 は採れたての野菜を持って、ある時は山で採ってきたキノコを持って。そしてみんな家には上がらずに、縁側に座り込むと我が家の家人とお茶をすすりながら長 話しをしていったものです。塩尻にだってあたり前のように存在していた人のつながり。それが今はありません。現在の我が家には裏口はありません。人が簡単 に出入りできる縁側への通路もありません。きっとそれは我が家に限ったことではないでしょう。最近建てられた家の多くは、閉鎖的な、家人のためだけのス ペースとして家が存在しているのです。

 より個人のプライバシーを重んじる暮らしぶり。それは仕方のないことでしょう。アパート、マンションなどの増加、個人が当たり前に車を持つ時代、TV、 ゲーム、インターネット。すべては個人を内側へと向かわせるものばかりです。その中で生まれる文化は家を閉鎖的なものへと変えていきます。そうやって形成 されてきた文化を、今から開放的な以前の暮らしぶりへと戻すことは容易なものではないでしょうし、多くの人は地域のコミュニティーが密になることを「面倒 くさい」と嫌がるかもしれません。

 より密な人のつながり。まちづくり。復興という消失したものからの再建は目に見えます。しかし私たちが住んでいる平穏そうに見えるその暮らしの中での 「まちづくり」は、形として目には見えてこないだけに容易なものではないはずです。2004年、我が住む町・塩尻市は「地域づくりイヤー」を政策の一環に 打ち出しました。しかし、その結果が一年で出るはずもありません。地道な繰り返しこそが結果を生み出します。どうかわが町が素晴らしい「まちづくり」のモ デル都市となるよう、市民と行政の協働がこれからも続いていくことを願い、さらに自分自身も何かを考えていかなくては・・・と思う店主です。こんな 小さな店でも、コーヒーという飲み物を媒介として、少しは地域のコミュニケーションに役立たないのかな?なんて考えております。地域の方が笑顔で気軽に立 ち寄ってくれる店。小さなことですが、そこから私のまちづくりへの参加をスタートさせようと思いまます。

  神戸に戻られた浅山さん。当店でお求めになられたコーヒーを淹れてくださっているでしょうか?きっと今日もコーヒーカップを片手に、地域の 住民の方々との交流に奔走されていることでしょう。なんとなく私の亡き父の面影にも似たものをお持ちの浅山さん。またお会いできる機会があれば、コーヒー を飲みながらのんびりと雑談に花を咲かせたい・・・などと思う店主なのでした。



<エッセイのTopに戻る >

十人十色のコーヒータイムを演出する、Toiro Coffeeです。
http://www.toirocoffee.com