No.014 / 2004年10月26日

「7 Days Rule」

   当店では焙煎後1週間以内
の珈琲豆のみを販売しています。当店のような住宅地 のはずれに位置する店にとって、焙煎後1週間の豆しか販売しないという設定はかなり大きなリスクとなります。当店がオープンした当初は、販売豆の保管期間 は2週 間ほどを見込んでおりました。コーヒーの香りが持続するのは焙煎してから約2週間である・・・というデータから考えた設定です。自家焙煎を謳っていても、十数種類以上の豆を販売していて、1ヶ月くらいは店頭売りしている店も多いですし、スーパーに並べられて いるコーヒー豆に関しては賞味期限が1年間も(!)ついています。それを思えば焙煎後2週間という設定でも十分だと思っていました。それが現在の「焙煎後 1週間以内の豆のみ販売」というスタイルに変更するきっかけとなったのは、当店のオープン直後に出会ったある人との会話でした。

  その人はアメリカ合衆国ハワイ諸島の中のモロカイ島の出身です。塩尻出身の奥様と出会い、塩尻に住んでいました(住んでいた・・・という過去形を使うの は、現在は東京に居を移されたからです)。店にやってきた彼は、店内の焙煎機を見つけると、英語で矢継ぎにいろいろと質問してきました。私のつたな い英語力でなんとか会話してみてわかったことは、彼がかつてモロカイ島でコーヒーショップをしていた・・・ということでした。美味しいコーヒーをお客様に 提供したい・・・そんな共通の夢を持った彼とはすぐに意気投合することとなりました。

  数日後、彼からメールが届きました。そしてメールに添付されていたのは、彼がモロカイ島でコーヒーショップを経営していた時に作成した店舗の運営マニュア ルです。その中にはコーヒーの淹れ方のほかにコーヒー豆の店舗での保存の仕方についても詳しく述べてありました。「店舗で販売する豆は焙煎後1週間以内に 限定すること。結露を防ぐために冷蔵庫に保管はしないこと・・・」などが書かれていました。これが「7 Days Rule」だったのです。コーヒーを同じく愛する彼が作成した細かなマニュアルは、私の気持ちを改めさせるのには十分なものでした。

  風が吹けば飛んでしまうような小さな店を続けるには、常にチャレンジャーであることを忘れてはいけないのです。1週間で各豆を売り切るためには多 種類の珈琲豆を取り扱うことはできません。物販には必ず「売れ筋」と「死に筋」が存在するからです。大手ショップのようにたくさんの種類の豆を扱いた い・・・その思いは常に私の脳裏を横切ります。その度に自分に言い聞かせるのです。「小さな船で大海を渡るのに、そんなに多くのモノは積む必要はないだろ う?」と。私の店は、嵐が荒れ狂う大海に出航した木っ端舟同然であることをいつも思い出すのです。
 
   「この豆はいつ焙煎したものですか?」。
  その問いに明確に答えられること。それが「自家焙煎珈琲」の看板を掲げる珈琲豆屋の最低限のルールだと思いま す。




  焙煎したコーヒー豆は生鮮食品です。焙煎した豆は大量のガスとともに香りを発散します。香りは段々と弱くなっていき、2週間でほぼ終息すると言われていま す。焼きたてが必ずしも一番美味しいわけではなくて、焙煎直後よりも焙煎してから3,4日経過したくらいが熟成が進んでいて美味しいようです。豆の種類に よって熟成のスピードは様々です。

 ちなみに、焙煎してから1週間を経過したコーヒー豆は棚から下ろされ、我が家 の「家使い用」に廻されます。(たまに常連さんにおすそ分けすることも・・・)

   


 ハワイ諸島の中の小さな島モロカイ島。そこでは海抜0メートルで栽培されている珈琲があります。ハワイ島コナ地区で栽培されている「ハワイ・コナ」はあ まりにも有名ですが、モロカイ島の「モロカイ」が日本の市場に出回ることはまずありません。
 いつかモロカイを焙煎してあの人に飲ませてあげよう・・・今日も「7 days Rule」と闘いながら、店主はそう思うのでした。



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