No.007
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2004年06月29日 |
「パッチ・アダムスがやってくる!」
トイロ・コーヒーのお客様の中に、Tさんという方がいます。決まって平日にやってくるTさんに、「ご職 業は何ですか?」と何気なく聞いたところ、「道化師です」という思いがけない返事が返ってきました。道化師といえば、サーカスや遊園地といったイメージし か湧かないのが一般的ではないでしょうか。Tさんの大事な活動のひとつに、「ケアリング・クラウン」という活動があります。道化のシンボル、 赤い鼻をつけて病院等を訪問し、患者さんたちに笑顔になってもらい、精神面から病気をケアするというものです。この話しをお伺いしたとき、その活動を店主 は理解したつもりでいました。でも、本当に大切なものには気づいていなかったのです。 今日、NHK-BSで放映されたロビン・ウィリアムズ主演の映画、「パッチ・アダムス」を観ました。この映画のモデルになっているパッチ・アダムスを、T さんが中心となって活動されている非営利団体、「スマイル・コラボレーション」が塩尻市に呼ぶというのです。Tさんから話しを聞くまではまったく知らな かったパッチ・アダムス。いったいどんな人なんだろう。そんな興味とともに録画したビデオテープをデッキに突っ込んだのでした。 パッチ・アダムスは医師です。けれども権威の象徴であるかのような医師の姿に疑問を持ち、「笑い」を接点に患者さんに応じます。映画の中で、ロビン・ウィ リアムズ演 じるパッチ・アダムズが言った言葉が心に響きました。「私の元へ来る人は、皆、患者です そして、皆、医師でもあります 人間同士のコミュニケーションが 互いを癒すのです」。そのシーンを見ていて、私の心は3年前の夏にタイム・スリップしていました。末期ガンと診断され、S大学付属病院に入院していた父の 姿が脳裏に浮かびました。むろん、パッチ・アダムスのような医師がいるわけがありません。そのことは淋しいことですが、あまりにも冷酷な医師の姿は、今の 日本の医療のあたり前の現実として私は忘れ去るように努めています(もちろん、素晴らしい医師もいるのでしょうけれど)。しかし、そんな一般的な医師の姿 を嘆くよりも、私はあの夏の自分自身を恥じました。当時、失業中だった私には、あり余る時間がありました。だから父の通院の際の送迎の運転手は常に私が勤 めましたし、入院してからも一日一回は顔を出しました。でも、それは父とのコミュニケーションというにはあまりに内容の薄いものでした。あんなに時間が あったのに、どうしてもっと会話をしなかったのだろう。幼い頃の思い出話しや、父の好きだったいろんなことの話しを、どうしてもっともっとしなかったのだ ろう。そのことを悔やんだのです。「すべての人が医師である」。まったくその通りです。父の食道からリンパ管を伝って全身へと転移してゆくガン細胞の増殖 は抑えられなくとも、父の笑顔を、父の安らぎを、自分はもっと引き出せてあげられたはずだし、自分自身も父の言葉をたくさん聞いて、もっと癒してもらえた だろうに・・・と思ったのです。
今年もまた暑い夏が来ます。私の店を訪れてくれるお客様と、たくさん話しをしよう。そして1杯のコーヒーの香りとともに、一人でも多くの方の心が安らいで くれたのなら、どんなにか嬉しいだろう。そしてそれは同時に、私の心をも癒してくれるに違いない。そんなことを思った店主なのでありました。 |