No.005 / 2004年05月19日

「出会い」

皆さんはコーヒーと最初に出会ったときのことを覚えているでしょうか?私は60年代生まれですから、もの心 ついた時にはすでにインスタント・コーヒーが広く普及していました。もちろん我が家にもビン入りのインスタント・コーヒーがありまして、それを飲んでいま した。小さい頃はコーヒーという飲み物は砂糖とミルクをいれて飲むのがあたり前だと信じきっておりまして、コーヒーに何も入れずに飲むというのは信じがた いことでありました。私がきちんとドリップしたコーヒーを目の当たりにしたのは、小学校の高学年くらいの時だったと思います。私より10歳ほど年上の従兄 弟のお姉さんがコーヒーを淹れてくれました。コーヒーの茶色い豆を見た時点ですでに驚いたのですが、それから待ち受けていた本物のコーヒーを淹れるための 「儀式」にはさらに驚かされることとなりました。棚から降ろされた何だかわからない箱に茶色い豆たちは無造作に放り込まれ、そしてその箱の上についている ハンドルを回すと、箱からはなんともいえない芳香がただよいはじめました。「儀式」は更に続きます。円錐形をした陶器に紙をセットし、そこに「箱」から取 り出された粉になったコーヒー豆を入れ、彼女はそおっとヤカンの口から湯をトロトロと注ぎます。小学生の私にとって、それはまさに「儀式」に他なりません でした。目の前に差し出されたコーヒーカップから上る香りを呆然と見つめ、「ああ、これこそがコーヒーなんだ・・・」と心の中で繰り返していました。その 光景はまるで魔術をかけられて心ここにあらずといった具合に見えたに違いありません。

私がコーヒーを豆をミルで挽いて淹れるようになったのは、大学生になって一人暮らしをはじめた時からです。最初はスーパーのコーヒー豆コーナーに備え付け てあるコーヒーミルで豆を挽いて袋詰めにしてレジで購入する・・・といったスタイルでコーヒーを購入していました。自分で豆を挽くようになったのは、友人 からコーヒーミルをプレゼントしてもらったことがきっかけでした。その友人は何にでもこだわる男でありまして、乗っている車はボロボロのフォルクスワーゲ ン・ ビートル(通称かぶと虫)、吸っているタバコはゴルワーズ、使っているライターはロンソンのものでした。そんな彼からのプレゼントがあったからこそ、コー ヒーを豆から挽いて淹れるという「こだわり」が自然と自分にも伝播したのだと思っています。

従兄弟が教えてくれた本物のコーヒーの味、そして友人が教えてくれた本物へのこだわり、それらが現在の自分に繋がっているのですから、「出会い」というの は本当に不思議なものです。皆さんはどんな風にコーヒーと出会いましたか?もしもまだコーヒーとの素敵な出会いが出来ていない・・・という方がいらっしゃ ましたら、ぜひともToiro Coffeeへ足を運んでもえたらと思います。

私にコーヒーという名の魔術をかけた従兄弟は、現在諏訪市に住んでいます。たまに塩尻峠を越えて、私の店までわざわざコーヒー豆を買いに来てくれます。私 が親類だということで私の店をひいきにしてくれている・・・というのは実はタテマエで、実はコーヒーという名の魔術から私が解放されてしまわないように様 子を見に来ているのではないか・・・と、ひそかに思う店主なのでありました。



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